ゆるっと観劇録

ひたすらに観たものの感想メモ

【舞台感想】イキウメ『聖地X』(2015)

イキウメ『聖地X』(2015)

 

www.ikiume.jp

 

2021/1/18、YouTube配信で鑑賞。
太陽に続いて私がイキウメの作品を観るのはこれが2つ目。いや、めちゃめちゃ、めちゃめちゃ面白かった…!

(あらすじは書かないけれど、以下ネタバレしかない殴り書き)

 

ホラーとか心霊現象とかその類のものが苦手なのでおっかなびっくり再生ボタンを押したのだけれど、観終わってみるとその心配はなかった。ただただ不思議な現象と向き合う登場人物達が魅力的で面白い……!

ここでいう魅力的というのは必ずしも「素敵な人だな、友達になりたい!」という意味ではなくて、あくまでキャラクターとして面白いなという意味。太陽の森繁さんが好きだったので浜田信也さんの演じる滋に目を奪われがちだったのだけれど、この滋がとにかく要をイライラさせるので観ている私にまで伝染してしまい……「この人嫌だなーー!」と結構本気で思ってしまった笑
役者とはすごいお仕事ですね。

 

反対に、どんどん好きになっていったのが安井順平さん演じる輝夫。なんせ資産があって働かずに生きている(しかも家政婦さんまでいる!)のがなんとも羨ましくて、偉そうな態度も相まって冒頭はぐぎぎぎ此奴は好かん!となってしまったのだけれど、怪奇現象を面白がる態度と軽妙な話し方が徐々に癖になり、終わる頃にはすっかり推しになっていた。
客席の笑いを一番とっていたのも彼。「寄りを戻しにきた口上にしては斬新すぎんだろ」「(面白半分にやっていいの?と問われて)強いて言えば面白全部」あたりの台詞の切れ味がキレッキレで笑った。口の達者なキャラって好きだなぁ。

 

「聖地X」は輝夫に限らず、全ての登場人物の台詞がリズム良くて心地良いなぁと感じた。それがイキウメ作品のカラーなのかな?
日常を送る人々の中にポッと非日常が現れておかしなことになっているのに、彼らの言葉を聞いて立ち居振る舞いを見ていると「こんなこともあるのかも」とするっと納得してしまうような自然な流れがある。ドキュメンタリーほど近くはないけどファンタジーほど遠くない、身近なSFといった感じの塩梅が面白いと思った。

 

しかし、三人目の滋が浴びたであろう恐怖を考えると震えあがっちゃうな。
「こんなことを本当にしていいのか」「彼を情報と見做すのか人間と見做すのか」「“始末”できるのか」といった要達の葛藤ももちろんドラマなんだけれど、あそこで縛られたまま全てを聞いていた三人目についつい感情移入してしまって……
いよいよ殺すか?みたいなシーンでも輝夫のコメディチックな動きに客席から笑い声が上がっていたけれど、私は素直に怖すぎて震えてしまった。逃げられないって怖いよね。

 

そういえば、分身ではなく「分裂」をすることで記憶が分散されてしまう、という仕掛けは以前児童書の「ドラゴンラージャ」で読んだことがあって、なんとなくそれを思い出しながら観ていた。(ドラゴンラージャでは何度も分裂をしたキャラクター(悪役)がその自分同士で殺し合ったために自分自身の大半を失うという展開があったんだけれど、聖地Xではそんなことにならなくてほっとした……)

 

舞台の幕が降りるとき、ああ現実に帰るんだなぁと知らず知らずのうちに溜めていた息を吐き出すような感覚がある。
あの土地にしめ縄付きの石を置いて三人が語らうラストシーンで、ああ彼らもそれぞれ現実に帰っていくんだなぁと思ってやっぱり息を吐き出してしまった。非日常は続かない、静かに蓋をして彼らは日常へ戻っていくのだと思うとなんだかほっとした。
きっと藤枝くんも、時間はかかるかもしれないけれどまた包丁を握れるようになるんだろう。
そうだといいな。