ゆるっと観劇録

ひたすらに観たものの感想メモ

【舞台感想】パラドックス定数 第47項『vitalsigns』

【舞台感想】パラドックス定数 第47項『vitalsigns』

pdx-c.com

 

サンモールスタジオ
12/18(土) 14:00

一年ぶりのパラドックス定数、観てきたよ!
ちょっと今までと毛色が違うかも?と序盤は思ったものの、終わってしまうとめちゃめちゃ「野木さんのパラドックス定数」以外の何物でもなくて、す、すごいよ〜〜面白すぎるよ〜〜とふらふらしながら帰ってきた。
vitalsigns、あと100回観たい。

サンモールスタジオという場所もこの作品にマッチしていて、とても良かった!
地下の小劇場にパイプ椅子がみちみちに詰め込まれて、呼吸が難しくなるような閉塞感。客入り中の機械音も相まって、めちゃめちゃ深海だったなぁ。
一番後ろの一番壁際の席から観ていたのだけれど、このコンパクトさのお陰でほとんど舞台上しか視界に入らなかった。大きな会場ではこうはいかないと思うので、本当にピッタリのハコだったと思う。
野木さんの挨拶が前方じゃなくて客席後方からだったのもちょっと笑えて面白かったな。

 

以下、内容に触れるのでネタバレ回避したい方は読まないでくださいね。

 

チラシに書かれた3行のあらすじと「たすけて」の文字を見た時、何というかもっと一方的なお話を想像していた。
この一方的というのは「逃げ場のない潜水艇が何者かにジャックされた。今にも自分の命が危ない」っていう、襲う者と襲われる者が一対一で存在するイメージ。だから相当辛い話なんだろうなと覚悟を決めて観に行ったんだけど、蓋を開けてみればもっと複雑で身近で苦しくてそれで希望のあるシナリオだった。

パラドックス定数は会話劇」なんてことは今更言うまでもないんだけれど、感情や立場の干渉、摩擦、ずれなんかを言葉のやり取りの中で描くのが本当〜〜に緻密で今回もめちゃめちゃため息をついてしまった。台本無駄がないこと、BGMがない中で役者の台詞と演技がひたすら真に迫っていること。観ているだけで相当疲れるので本当に楽しい。
しかも今回は人間同士の会話ではない。「人間の体を得たばかりの存在」を演じる三人の細かな違和感、全員定点カメラで見たいくらい凄まじかったな!葉山となんとかコミュニケーションを取ろうと試みる序盤の汐入の植村さん、身体の使い方どうなってるのと思ったよ。俳優ってすごい。

「深海で救難信号を出した乗組員を助けたはずが、何かおかしい」という序盤、「状況が分からずに怯えているのはこの場の全員だ」と分かる中盤、希望と恐怖が混じり合う終盤。少しずつ少しずつ情報が出揃っていくにつれて、5人それぞれの力関係が変わっていく。誰かが何かを言うたび、「頭だけで会話する」たび、立ち位置が変わるたびに違った緊張感が生まれて全然息がつけなかった。
しかも台本読むと頭を使った会話も全部ちゃんと書かれてるんだよね。も〜〜〜とんでもないよ。パラ定の台本は本当に怖い!最高!

台本といえば、今作の台本を読んでたまらなくなってプライベート・ジョークを読み返してしまった。
もちろん何の関係もないと分かってはいるんだけれど、汐入の台詞の端々に詩人Lを感じてしまったから。同一性の話をし始めたところでもうオタクの情緒、勝手にぼろぼろよ。
バラエナ組の中でよりによって「言葉を巧く使える」汐入を植村さんに演じさせるの、もう、もう〜〜〜〜!って感じで……
思わぬ拗らせ方をしてしまったけれど、汐入、好きです。
バラエナから早く離れるために六浦を置き去りにすることができて、酸素の残量を考えて犠牲の順番を考えることもできて、地上へ上がるのは怖いけれどもそれを「希望」と捉えることができる汐入。
汐入の「怖いけど楽しみだ」っていう台詞は、それ自体が「vitalsigns」という潜水艇のハッチを開いた時に飛び込む光のように思えたな。

バラエナの三人にこれから穏やかな人生が送れる見込みはほとんどないに等しくて、葉山も六浦も三人以上にそのことを分かっている。(といったってそんなに人体実験とかはされないんじゃないかなとは思うんだけど……)
けれど少しでも希望を見出せるようになったのは全員が深海で諦めずに会話をし、「一番変わったのは葉山さん」と言われるほどの葉山の変化を見たから。
「怖いけど楽しみだ」「こいつらヒトじゃん」のくだり、次に見たら絶対に泣いてしまうと思った。全員がそれぞれ苦しい立場で、それでもコミュニケーションを続けてきた蓄積の上にある言葉だ。クライマックスだよ……

それから、エピローグの葉山と六浦。
床に座って六浦の方へ右手を伸ばす葉山の横顔が何というか、美しくて、目に焼き付いて離れない……
葉山にとっての六浦も、六浦にとっての葉山も、「もうすぐ人間でなくなるかもしれない」という恐怖を共有する唯一の人間。その二人が二人っきりで海へ戻っていくラスト、心臓がぎゅっとしてしまう。
どうか下がっていないでくれと願いながら手を握って確かめるけれど、二人とも体温が下がっていたら気付けないんだよね。しかも数分後には陸に上がらなければいけないわけで、変化が今起きようが起きまいが、社会に戻っていかなければならないことは変わらない。
何度も繰り返される「個体差」という言葉もラストまでずっと効いてくるな。

結局彼らが何なのかは誰にも分かっていないのだけれど、六浦の「進化したヒト」を聞いてなんとなくイキウメの「太陽」のノクスを思った。
救難艇という狭い場所から陸に上がるために冷静に行動をしなければならなかったということを差し引いても、「誰を犠牲にするか」のくだりでバラエナ組が冷静すぎるように感じたんだよね。鳥浜も堀ノ内も汐入も生きる意思は人間と同じように持っているはずなのに、殺されるかもしれないというくだりで誰も騒がなかった。六浦の話を聞かずに話し続ける汐入も異質な感じが際立ってたな。彼らはオールド人類よりも「合理的」にものを考えるように進化しているのかもしれないなぁ。


会話の中で容赦なく問いかけてくる、マジョリティマイノリティ、仲間の境界線、対等とは何か、異質とは、他者とは。
台本読むたびに頭がぐるぐるするのでまだ飲み込むのに時間がかかりそう。
感想もそのうち更新しそうだけれど、一旦この辺で締める。
vitalsigns、面白かったなぁ。

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