ゆるっと観劇録

ひたすらに観たものの感想メモ

【舞台感想】TipTap ミュージカル『Play a Life』

TipTap ミュージカル『Play a Life』(2021)

www.tiptap.jp

 

観劇日:2021/1/23 マチネ
会場:ヒカリエホール ホールA
チーム:白猫チーム(中井智彦/仙名彩世/黒沢ともよ)

 

去年Youtubeで配信していた2018年版(岸祐二/彩吹真央/平川めぐみ)を観て大好きになり、次の再演は絶対に観に行きたいと思っていた演目。
こんなご時世だけれどもようやく機会を掴むことができたので、リモート配信やアーカイブ上映の選択肢とも迷ったけれど現地で観てきました。
無事に幕が上がって、観ることができて良かったなぁ。

 

ここから先はネタバレに配慮しない感想。


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M0の『今を生きる』について。

実習生役の黒沢ともよさん、妻役の仙名彩世さんに続いて夫役の中井智彦さんが呟くように歌い始めた瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。
そして中井さんの声がサビでフォルテになった瞬間にぶわっと涙が出てきてしまって、冒頭から肩を震わせて泣く羽目になってしまった。

配信で観たことがあるから話の筋は分かっているし、劇団のコンサート動画も何度か聴いて心の準備はできていたと思っていたのに……
爆速で壊れた涙腺に本当にびっくりした。それだけこの楽曲にパワーがあるということなんだと思う。

私は今回最前列下手側の端っこで観ていたので、舞台との間に視界を遮るものが何もなかった。目の前にいる中井さんの声が、びりびりとした震える空気としてダイレクトに伝わって、何度も全身総毛立つのを感じた。生で浴びるミュージカルの熱量というものに圧倒されてしまって、いやもう、本当に「感動した」としか言いようがない。

ピアノ(田中和音さん)とチェロ(石貝梨華さん)が演奏する美しい伴奏に、スポットライトを浴びたキャスト三人の声が重なる。
メロディも歌詞も本当に美しい上に三人のドラマを感じながら聞いているから、情緒がめちゃくちゃになってしまって……
『今を生きる』という楽曲の持つ力とそれを作り上げる演者達の力に骨抜きにされてしまった。

https://youtu.be/YcdUdfSR_Qc

youtu.be


これは劇団のコンサート音声。『今を生きる』は29:30から聞ける。お気に入りの『the Movie Study』は19:30!

 

馬鹿みたいにマスクを濡らしながら最後まで観ていたのだけれど、多分私が『Play a Life』をここまで好きになったのはこの作品がミュージカルだからなのだと思う。(ストレートプレイだと素直にのめり込めないような台詞や展開も、ミュージカルだと大きなうねりに巻き込むように心を奪っていくパワーがあるというか……)
『今を生きる』以外にも80分の中で紡がれる台詞の大部分が歌に乗せられていて、悲しみや慈しみや寄り添う気持ちがピアノとチェロと共に紡がれる。ひとつひとつの言葉が大事に丁寧に作られたことが分かる歌詞がすっと心に入って来て、全編が心を掴んで離さない素敵な公演だった。


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このおはなしについて。

生まれることを選べないのに、気づいたら自分は生まれていて死ぬまで生きるしかない。
途中で大事な人を失っても、やはり生きるしかない。
そんな誰もが抱える悲しみややりきれなさを肯定した上で背中を押すような脚本が、あたたかくて好きだ。

「無名の人々の人生こそが歴史であり、人生が織りなす布こそが歴史」「幕が降りるまであなたががこの世界の主役」「あなたが消えれば世界も消える」「あなただけの人生」
どれもこれも全ての言葉が切なくて、それでも全てがだからこそ今を生きよう、自分の人生を生きようというメッセージにつながるのが美しくて好きだ。

素面で言われたらもしかしたら説教くさいなぁと思ったかもしれないけど、やはり音楽で涙腺と情緒にダイレクトアタックされているので……
眩しすぎるメッセージがすとんと入って来る。好きだなぁ。


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役・キャストさんについて

実習生/黒沢ともよさん
ハッとするほど綺麗な目をしているなぁと思った。とても華奢な方で、実習生の頼りなさそうな感じやひっくり返る声が可愛らしい。
停電に乗じて帰ってきたシーンは私の席から彼女の顔が良く見えた(反対に夫はずっと背中しか見えなかった)のだけれど、泣きそうな目で夫に語りかける表情がグッときた。
M7の『生きる哲学』がパワフルでとっても良かった!

妻/仙名彩世さん
くしゃっと下がる眉尻が印象的だった。本当に夫のことが大好きな妻なのだということが良く伝わってきて……
実習生が妻の言葉を代弁するシーンでは、間違っていても合っていてもにこにこ笑う表情が素敵で、実習生にとっても本当に良い先生だったんだなぁと改めて思ったり。
M14の『世界に溶けて行く』がたまらなく好き。

夫/中井智彦さん
中井さんの目線ひとつひとつ、台詞ひとつひとつで泣きそうになってしまって、もうどうしようもなかった。(泣きそうというか実際泣いていた)
何より歌声が素晴らしくて……

声を絞り出すように歌うM13の『告白』では特に心臓がぎゅっとしたな。
ちゃんと感想を残しておきたいのに何と言っていいのかわからない。本当に素敵だった。素敵だったなぁ(泣)


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その他。

入場すると会場は暗くて、控えめな照明のホールは映画館のようだった。
入ってすぐのところにはライトに照らされた映画のポスターがいくつも並んでいて、「名画座だ!」と思う。
始まる前から自然と世界観に入り込んでしまうような作りになっていて、雰囲気が本当に素敵。
楽器隊のチューニングと演奏、キャストさんの静かな登壇、場内アナウンスの順番で徐々に幕が上がっていくさまも静かにドキドキしてとても好きだった。

パンフレットは出席簿のデザイン。見返すたびにぐっとくるような素敵なパンフレットだな。
作演出の上田さんと作曲の小澤さんのコメントもじーんときてしまって、改めて素敵な作品に出会うことができたなぁという気持ちになった。

 

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写真が下手すぎて悲しい。