ゆるっと観劇録

ひたすらに観たものの感想メモ

【舞台感想】パラドックス定数 第47項『vitalsigns』

【舞台感想】パラドックス定数 第47項『vitalsigns』

pdx-c.com

 

サンモールスタジオ
12/18(土) 14:00

一年ぶりのパラドックス定数、観てきたよ!
ちょっと今までと毛色が違うかも?と序盤は思ったものの、終わってしまうとめちゃめちゃ「野木さんのパラドックス定数」以外の何物でもなくて、す、すごいよ〜〜面白すぎるよ〜〜とふらふらしながら帰ってきた。
vitalsigns、あと100回観たい。

サンモールスタジオという場所もこの作品にマッチしていて、とても良かった!
地下の小劇場にパイプ椅子がみちみちに詰め込まれて、呼吸が難しくなるような閉塞感。客入り中の機械音も相まって、めちゃめちゃ深海だったなぁ。
一番後ろの一番壁際の席から観ていたのだけれど、このコンパクトさのお陰でほとんど舞台上しか視界に入らなかった。大きな会場ではこうはいかないと思うので、本当にピッタリのハコだったと思う。
野木さんの挨拶が前方じゃなくて客席後方からだったのもちょっと笑えて面白かったな。

 

以下、内容に触れるのでネタバレ回避したい方は読まないでくださいね。

 

チラシに書かれた3行のあらすじと「たすけて」の文字を見た時、何というかもっと一方的なお話を想像していた。
この一方的というのは「逃げ場のない潜水艇が何者かにジャックされた。今にも自分の命が危ない」っていう、襲う者と襲われる者が一対一で存在するイメージ。だから相当辛い話なんだろうなと覚悟を決めて観に行ったんだけど、蓋を開けてみればもっと複雑で身近で苦しくてそれで希望のあるシナリオだった。

パラドックス定数は会話劇」なんてことは今更言うまでもないんだけれど、感情や立場の干渉、摩擦、ずれなんかを言葉のやり取りの中で描くのが本当〜〜に緻密で今回もめちゃめちゃため息をついてしまった。台本無駄がないこと、BGMがない中で役者の台詞と演技がひたすら真に迫っていること。観ているだけで相当疲れるので本当に楽しい。
しかも今回は人間同士の会話ではない。「人間の体を得たばかりの存在」を演じる三人の細かな違和感、全員定点カメラで見たいくらい凄まじかったな!葉山となんとかコミュニケーションを取ろうと試みる序盤の汐入の植村さん、身体の使い方どうなってるのと思ったよ。俳優ってすごい。

「深海で救難信号を出した乗組員を助けたはずが、何かおかしい」という序盤、「状況が分からずに怯えているのはこの場の全員だ」と分かる中盤、希望と恐怖が混じり合う終盤。少しずつ少しずつ情報が出揃っていくにつれて、5人それぞれの力関係が変わっていく。誰かが何かを言うたび、「頭だけで会話する」たび、立ち位置が変わるたびに違った緊張感が生まれて全然息がつけなかった。
しかも台本読むと頭を使った会話も全部ちゃんと書かれてるんだよね。も〜〜〜とんでもないよ。パラ定の台本は本当に怖い!最高!

台本といえば、今作の台本を読んでたまらなくなってプライベート・ジョークを読み返してしまった。
もちろん何の関係もないと分かってはいるんだけれど、汐入の台詞の端々に詩人Lを感じてしまったから。同一性の話をし始めたところでもうオタクの情緒、勝手にぼろぼろよ。
バラエナ組の中でよりによって「言葉を巧く使える」汐入を植村さんに演じさせるの、もう、もう〜〜〜〜!って感じで……
思わぬ拗らせ方をしてしまったけれど、汐入、好きです。
バラエナから早く離れるために六浦を置き去りにすることができて、酸素の残量を考えて犠牲の順番を考えることもできて、地上へ上がるのは怖いけれどもそれを「希望」と捉えることができる汐入。
汐入の「怖いけど楽しみだ」っていう台詞は、それ自体が「vitalsigns」という潜水艇のハッチを開いた時に飛び込む光のように思えたな。

バラエナの三人にこれから穏やかな人生が送れる見込みはほとんどないに等しくて、葉山も六浦も三人以上にそのことを分かっている。(といったってそんなに人体実験とかはされないんじゃないかなとは思うんだけど……)
けれど少しでも希望を見出せるようになったのは全員が深海で諦めずに会話をし、「一番変わったのは葉山さん」と言われるほどの葉山の変化を見たから。
「怖いけど楽しみだ」「こいつらヒトじゃん」のくだり、次に見たら絶対に泣いてしまうと思った。全員がそれぞれ苦しい立場で、それでもコミュニケーションを続けてきた蓄積の上にある言葉だ。クライマックスだよ……

それから、エピローグの葉山と六浦。
床に座って六浦の方へ右手を伸ばす葉山の横顔が何というか、美しくて、目に焼き付いて離れない……
葉山にとっての六浦も、六浦にとっての葉山も、「もうすぐ人間でなくなるかもしれない」という恐怖を共有する唯一の人間。その二人が二人っきりで海へ戻っていくラスト、心臓がぎゅっとしてしまう。
どうか下がっていないでくれと願いながら手を握って確かめるけれど、二人とも体温が下がっていたら気付けないんだよね。しかも数分後には陸に上がらなければいけないわけで、変化が今起きようが起きまいが、社会に戻っていかなければならないことは変わらない。
何度も繰り返される「個体差」という言葉もラストまでずっと効いてくるな。

結局彼らが何なのかは誰にも分かっていないのだけれど、六浦の「進化したヒト」を聞いてなんとなくイキウメの「太陽」のノクスを思った。
救難艇という狭い場所から陸に上がるために冷静に行動をしなければならなかったということを差し引いても、「誰を犠牲にするか」のくだりでバラエナ組が冷静すぎるように感じたんだよね。鳥浜も堀ノ内も汐入も生きる意思は人間と同じように持っているはずなのに、殺されるかもしれないというくだりで誰も騒がなかった。六浦の話を聞かずに話し続ける汐入も異質な感じが際立ってたな。彼らはオールド人類よりも「合理的」にものを考えるように進化しているのかもしれないなぁ。


会話の中で容赦なく問いかけてくる、マジョリティマイノリティ、仲間の境界線、対等とは何か、異質とは、他者とは。
台本読むたびに頭がぐるぐるするのでまだ飲み込むのに時間がかかりそう。
感想もそのうち更新しそうだけれど、一旦この辺で締める。
vitalsigns、面白かったなぁ。

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【舞台感想】ミュージカル『スリル・ミー』

horipro-stage.jp

 

一年ほど前にCDを聞いて拗らせてから次の再演を心待ちにしていたスリルミー。噂に違わずぴんと張り詰めた空気の劇場が本当に好きだったのだけれど、ばたばたしていたせいで感想を残す時間がなかなか取れず、1ヶ月近く経ってしまった。まだ思い出せる感情を残しておく。

今回私が観ることができたのは松岡私×山崎彼と田代私×新納彼の2ペア。
成河私×福士彼も観たくて本当に楽しみにしていたのだけれど、このご時世で諦めざるを得なかった。悔しい……悔しいけれどこの片想いを大事に取っておいて次の再演を信じることにする。

◯4/13 12:00 松岡×山崎(×篠塚)

今回で初登場のキャスト、松山ペアが私の初見ミーになった。
もしかするとコロナ禍での公演ということもあったかもしれないけれど、上演10分前くらいからは微かな衣擦れの音しかしない劇場に興奮した。全員が息を潜めて私の独白が始まるのを待っていて、いつ幕が上がるか分からない暗い舞台の上に意識を集中しているのが分かって「舞台を観にきたんだ……!」という気持ちになる。

ピアニストの篠塚さんが静かに出てきてプレリュードを引き始めた瞬間、「二人芝居なんて嘘じゃん!」って叫びたくなった。三人芝居だった。
当たり前だけれど、同じ曲なのに今まで聴いてきたCDと全然違う。いやほんと、当たり前なんだけれど、あの瞬間に頭を殴られた気になってすっかり酔った。ピアノも役者だ。最初から最後まで私と彼の感情に絡みついて増幅させるピアノに本当にゾクゾクした。

座席が遠くて松岡私も山崎彼も表情はよく見えなかったのだけれど、その分舞台全体をまとまりとして捉えることはできた。
後から観た初見ペアと比べると、このペアは声、動作で立てる音、身長差といった全ての要素が美しく丸くまとまっていて、時折その丸に収まりきらない激情が殻を突き破って出てくるように感じた。
特に、背の高い山崎さんと小柄な松岡さんが並んでいることが舞台装置としてあまりにも完璧だと思った。絵画みたい。

公演を通して何よりゾクゾクしたのが松岡私の演じ分け。若い私と老いた私の変わりようが本当に化け物じみていた。
冒頭、背筋を丸めて手を前にして低い声で話し始めた松岡私が若い俳優には全く見えなかった。すごい、すごいな。
記憶が曖昧だけれど、松岡私は感情が爆発するような曲で一瞬だけ1オクターブ上を歌っていたところが何箇所かあった気がする。好きだ。

それから、CDを聞いていた頃はどちらかといえば彼のせいで私が悪い方向に進んでしまったんだろうなという印象も結構強かったんだけれど、松岡私がいかにも腹に何か抱えていますよというオーラを冒頭から出すものだから、そのイメージが完全にひっくり返ってしまった。
私にも彼にも同情するわけではないのだけれど、特に事後のつやつやした私と「身体を使われてしまった」って感じの彼のシーン見ているとうわああああああとなった。自分が望まない形で身体を求められるのって地獄だもの。種を蒔いたのは彼ですが。

彼といえば、山崎彼はいかにもハンサムで足が長くて(バードウォッチング中の私に忍び寄る時の彼の足捌きはあまりにも気取っていて笑ってしまった)モテそうだった。
自分の魅力や武器は十分に理解していて、その分私や弟や父に対する屈折した感情も巨大で、それから視野が狭いイメージ。
山崎彼だけでなく松岡私も圧倒的に賢いけれど視野の狭い若者というイメージで、多分他に選べる道はいくつもあったのに見える道が一本しかなかったのだろうなという感じがした。


4/13 18:00 田代×新納(×朴)

同じ日に初演ペアを観た。
今度は席が前の方だったのもあって、なんだか完全に呑まれてしまって自分の感じたことを整理することが出来なかった。
観終わった後呆然として電車を間違えかけたのは覚えているのだけれど、今言葉で整理しようとすると驚くほど何も思い出せない。

冒頭から蓄積された興奮が新納彼の「死にたくない」でピークを迎えて頭が真っ白になってしまったような印象だった。
とにかく「死にたくない」が衝撃的で……
私にとっては、田代私も新納彼も朴さんのピアノもとにかく全部、この「死にたくない」を観るために積み上げられていたんだなと思う公演だった。

松山ペアの印象を「全ての要素が美しく丸くまとまっていて、時折その丸に収まりきらない激情が殻を突き破って出てくる」と書いたけれど、初演ペアは圧倒的に大きな質量の塊が真っ黒に鈍く光って存在しているような印象だった。
とにかく大きくて重くて黒い。そして歌のエネルギーが圧倒的だった。

田代私も新納彼も本当に衝撃で何度も鳥肌と涙目がとまらなかったんだけれど、本当にちゃんと思い出せない……
5回くらい繰り返されたカーテンコールで拍手しながら、とにかく観れて良かったと思った。
凄まじいの一言に尽きる。


田代私、こわかったな。

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【舞台感想】Yellow/新感線『月影花之丞大逆転』

観劇日:2021/3/6 マチネ(東京建物Brillia HALL)、2021/3/20 ソワレ(ライビュ)

感想っていうかもう……考えれば考えるほど「面白かった!幸せだった!」の感情しか出てこなくなるので、文章にもならないけれど。忘れてしまう前にちょっとだけでも残しておきます。
月影花之丞大逆転、サイッコーーーーーー!

www.vi-shinkansen.co.jp

 

観劇日:2021/3/6 マチネ(東京建物Brillia HALL)、2021/3/20 ソワレ(ライビュ)

ここから下はネタバレに配慮していません。

 

義経の博多公演が中止になって、神州無頼街が中止(からの延期になったのはとても嬉しい、無事幕が上がりますように)になって、SSPや浦カチを経てようやくたどり着いた新感線の舞台。どれだけの人がどれだけ頑張って幕が上がったんだろうと考えるともうそれだけでちょっと泣きそうになる客入りタイムだった。そしてSSPジャケットのスタッフさん見てニコニコするなど。
家に帰ってから読んだけれど、パンフレットの後半のページもめちゃめちゃ良かったな。じーーんとした。


始まったらもう、本当にハッピーしかなかった。

 

これが劇団⭐︎新感線だ!!!!って感じの全力のおちゃらけと歌とストーリー。
各方面に怒られろwwwとなる大天才のオープニング。(私は大河内まさるの小毛田逆向が好き)
アルプスの傭兵ジイジの破壊力。
ジイジOPで狂ったようにスキップする阿部さんが最高すぎて、現地でもライビュでも笑い声堪えるのに腹筋が痛くなった。何あの動きは、天才……
歌うま女性陣向けてYeah郎くんを振るのが楽しい!
若いゲスト二人も2回目に見た時はキレが増していて良かったな。
ヤギ……!
これ城?城だ!!城だーーー!ゴエロクも来た!?城だーーーーーーー!!!!となる後半の畳み掛け!大天才中島かずき先生、ずるすぎるじゃん。

 

他にもひたすら笑って笑って楽しかったんだけど、楽しかったな〜〜〜!!ってことしか考えられなくて感想にならないや……(ほんとにほんとに楽しかった)

 

それから、月影先生のセリフがいちいち沁みる。
この一年、作り手も観客も「舞台」を求めていたんだなぁと改めて実感したな。
「月影花之丞大逆転」がもちろん観客に向けた作品であることは間違いないんだけど、中島先生といのうえさんから板の上の役者に向けた、応援歌やラブレターや賛美でもあるんだろうなと思う。

保険の外交員も伝説の暗殺者もパートのおばちゃんもインターポールも皆「舞台の上で何者かになる」ことを肯定されるの、ハッピーだなって!
そして役者が立つ場所は劇団の制作陣が守りきってやんよっていう、そんな強いメッセージを勝手に受信しました。

 

ありがとう、劇団⭐︎新感線。大好きです。

月影花之丞大逆転、本当にパワフルで楽しくて希望に溢れていて良い舞台だな〜〜!
ゲキシネになりますように!円盤になりますように!(アウト感に溢れていてとても心配!)

【舞台感想】ILLUMINUS『女王輪舞』

ILLUMINUS『女王輪舞』

www.jouou-rinbu.net

観劇日:1月30日
会場:六行会ホール

私が応援している生田輝さんがW主演を務めていらっしゃる舞台を観てきました。
開演前アナウンスもカーテンコールの挨拶もお辞儀の指揮も生田さんで、「ざ、座長さんや〜〜!」と嬉しくなるなど……
推しの輝く姿はいつでもオタクに元気を与えてくれるものだなぁ(感嘆)

以下、あらすじは書かないけれどネタバレに特に配慮しない感想。

*****
舞台は19世紀ロンドン、切り裂きジャックとジャックに出会う貧しい少女のお話。
実はラスト数分くらいまで脚本やキャラの反応が色々唐突な感じがするな……と思って全体的にのめり込めないまま観ていたのだけれど、多分前作までのシリーズを観ていないせいかな。重要キャラのこれまでやシリーズのお約束を知っていれば全て整合性の取れたストーリーとして受け取れたのかもしれない。
それはそれとして、沢山の女優さん達が綺麗な衣装を着て歌い踊り苦しむ姿は美しくて、シンプルに楽しかった。

「ガールズゴシックシリーズ舞台」と銘打たれているだけあって、衣装がゴシック?ゴスロリ?調に統一されているのが目に楽しい。
貧困街の孤児院の子達まで手の込んだ綺麗な衣装を着ているので「貧……困……?」となったりもしたのだけれど笑、綺麗な役者さん達が舞台上で映える衣装を着ているのはそれだけで満足感があるものですね。
個人的にはボロ布とか血糊とか泥汚れとか擦り傷切り傷がしっかり作られているタイプの衣装・メイクが好みなんだけど、最初から最後まで美しくて可愛いというのもまた舞台ならではの虚構という感じ。大活躍だったサーヴァントの皆さんがくるくると衣装替えされるのも素敵だったな。特に警察のパンツスタイルがお気に入り。

ビジュアル繋がりで言うと、観ていく中で一番目がひかれたのは星守紗凪さん演じるアン。
他の子がおおむね黒や地味な色を基調とした服装をしている中で真っ赤なドレスが目立っていて、衣装だけでなく表情や身のこなしも素敵だった。
途中で彼女が普通の人間ではないことが分かるのだけれど、苦しみ続けるジャックとは対照的に色々吹っ切れた感じで戦闘するアンが良かったな。戦闘民族属性好き。エリザベートアメリアと並び立った時の「強そう〜〜!」感も好き。

あとは白石まゆみさん演じるハリエットちゃんも可愛かったな。よく揺れるポニーテールと綺麗に通る声!
真っ直ぐで負けん気の強い警察官、今後ともロンドンの平和を守ってください。

*****
女王輪舞はW主人公のジャックとメリルの正体が二転三転して明かされていくよ!という流れのストーリー。
全部明かされるとうわーんジャックさん切ないようとなる仕掛けだった。

創作物あるあるだけど、望まずして得た永遠の命ってろくなことにならないよね〜〜(にっこり)
愛する子供を守りたかっただけの母親が抵抗叶わず怪物にされて、その舞台から降りることも出来ないってつらいな。

ジャックのキザで芝居がかった立ち居振る舞いも娘達にバレずに見守るために身につけたものだと思うと「愛……」となる。
今回は一度しか観ていないので記憶が曖昧だけど、そういえばメリルちゃん逃避行の途中でジャックさんに「親みたいなこと言わないでよ!」的なことを言ってたね。わーーそれはジャックさんに効く。
メリルちゃん、大変だろうけどどうか健やかに育ってね。

*****
ミュージカルというほどではないけど、要所要所に歌パートが挟まれて推しさんのダンスを拝むことができました。
(全員で踊るとキャストさんの人数に対して舞台狭くない?と思ってしまい……窮屈に見えたりしたものの、皆さん素敵)

ジャックは身体のラインをあまり隠さない衣装だったので動きが良く見えて良かった〜〜!
殺陣のシーンではナイフやステッキの攻撃に加えて綺麗な蹴りまで見られたので嬉しい。(私は足技が好き)(私は足技が好き)
終演後に少しお話ししたお友達が「今日の生田さん足長くなかった……!?」って言っていたので私はにっこりしました。

ブログにアップされたときには全公演終わっていると思うけれど、この感想を書いている今は、まだ千秋楽前。(時空の歪み〜〜)
残り3公演全て全席完売だそうで、おめでたい限りです。
無事完走できますように!

 

 

 

【舞台感想】TipTap ミュージカル『Play a Life』

TipTap ミュージカル『Play a Life』(2021)

www.tiptap.jp

 

観劇日:2021/1/23 マチネ
会場:ヒカリエホール ホールA
チーム:白猫チーム(中井智彦/仙名彩世/黒沢ともよ)

 

去年Youtubeで配信していた2018年版(岸祐二/彩吹真央/平川めぐみ)を観て大好きになり、次の再演は絶対に観に行きたいと思っていた演目。
こんなご時世だけれどもようやく機会を掴むことができたので、リモート配信やアーカイブ上映の選択肢とも迷ったけれど現地で観てきました。
無事に幕が上がって、観ることができて良かったなぁ。

 

ここから先はネタバレに配慮しない感想。


*****
M0の『今を生きる』について。

実習生役の黒沢ともよさん、妻役の仙名彩世さんに続いて夫役の中井智彦さんが呟くように歌い始めた瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。
そして中井さんの声がサビでフォルテになった瞬間にぶわっと涙が出てきてしまって、冒頭から肩を震わせて泣く羽目になってしまった。

配信で観たことがあるから話の筋は分かっているし、劇団のコンサート動画も何度か聴いて心の準備はできていたと思っていたのに……
爆速で壊れた涙腺に本当にびっくりした。それだけこの楽曲にパワーがあるということなんだと思う。

私は今回最前列下手側の端っこで観ていたので、舞台との間に視界を遮るものが何もなかった。目の前にいる中井さんの声が、びりびりとした震える空気としてダイレクトに伝わって、何度も全身総毛立つのを感じた。生で浴びるミュージカルの熱量というものに圧倒されてしまって、いやもう、本当に「感動した」としか言いようがない。

ピアノ(田中和音さん)とチェロ(石貝梨華さん)が演奏する美しい伴奏に、スポットライトを浴びたキャスト三人の声が重なる。
メロディも歌詞も本当に美しい上に三人のドラマを感じながら聞いているから、情緒がめちゃくちゃになってしまって……
『今を生きる』という楽曲の持つ力とそれを作り上げる演者達の力に骨抜きにされてしまった。

https://youtu.be/YcdUdfSR_Qc

youtu.be


これは劇団のコンサート音声。『今を生きる』は29:30から聞ける。お気に入りの『the Movie Study』は19:30!

 

馬鹿みたいにマスクを濡らしながら最後まで観ていたのだけれど、多分私が『Play a Life』をここまで好きになったのはこの作品がミュージカルだからなのだと思う。(ストレートプレイだと素直にのめり込めないような台詞や展開も、ミュージカルだと大きなうねりに巻き込むように心を奪っていくパワーがあるというか……)
『今を生きる』以外にも80分の中で紡がれる台詞の大部分が歌に乗せられていて、悲しみや慈しみや寄り添う気持ちがピアノとチェロと共に紡がれる。ひとつひとつの言葉が大事に丁寧に作られたことが分かる歌詞がすっと心に入って来て、全編が心を掴んで離さない素敵な公演だった。


*****
このおはなしについて。

生まれることを選べないのに、気づいたら自分は生まれていて死ぬまで生きるしかない。
途中で大事な人を失っても、やはり生きるしかない。
そんな誰もが抱える悲しみややりきれなさを肯定した上で背中を押すような脚本が、あたたかくて好きだ。

「無名の人々の人生こそが歴史であり、人生が織りなす布こそが歴史」「幕が降りるまであなたががこの世界の主役」「あなたが消えれば世界も消える」「あなただけの人生」
どれもこれも全ての言葉が切なくて、それでも全てがだからこそ今を生きよう、自分の人生を生きようというメッセージにつながるのが美しくて好きだ。

素面で言われたらもしかしたら説教くさいなぁと思ったかもしれないけど、やはり音楽で涙腺と情緒にダイレクトアタックされているので……
眩しすぎるメッセージがすとんと入って来る。好きだなぁ。


*****
役・キャストさんについて

実習生/黒沢ともよさん
ハッとするほど綺麗な目をしているなぁと思った。とても華奢な方で、実習生の頼りなさそうな感じやひっくり返る声が可愛らしい。
停電に乗じて帰ってきたシーンは私の席から彼女の顔が良く見えた(反対に夫はずっと背中しか見えなかった)のだけれど、泣きそうな目で夫に語りかける表情がグッときた。
M7の『生きる哲学』がパワフルでとっても良かった!

妻/仙名彩世さん
くしゃっと下がる眉尻が印象的だった。本当に夫のことが大好きな妻なのだということが良く伝わってきて……
実習生が妻の言葉を代弁するシーンでは、間違っていても合っていてもにこにこ笑う表情が素敵で、実習生にとっても本当に良い先生だったんだなぁと改めて思ったり。
M14の『世界に溶けて行く』がたまらなく好き。

夫/中井智彦さん
中井さんの目線ひとつひとつ、台詞ひとつひとつで泣きそうになってしまって、もうどうしようもなかった。(泣きそうというか実際泣いていた)
何より歌声が素晴らしくて……

声を絞り出すように歌うM13の『告白』では特に心臓がぎゅっとしたな。
ちゃんと感想を残しておきたいのに何と言っていいのかわからない。本当に素敵だった。素敵だったなぁ(泣)


*****
その他。

入場すると会場は暗くて、控えめな照明のホールは映画館のようだった。
入ってすぐのところにはライトに照らされた映画のポスターがいくつも並んでいて、「名画座だ!」と思う。
始まる前から自然と世界観に入り込んでしまうような作りになっていて、雰囲気が本当に素敵。
楽器隊のチューニングと演奏、キャストさんの静かな登壇、場内アナウンスの順番で徐々に幕が上がっていくさまも静かにドキドキしてとても好きだった。

パンフレットは出席簿のデザイン。見返すたびにぐっとくるような素敵なパンフレットだな。
作演出の上田さんと作曲の小澤さんのコメントもじーんときてしまって、改めて素敵な作品に出会うことができたなぁという気持ちになった。

 

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写真が下手すぎて悲しい。



【舞台感想】イキウメ『聖地X』(2015)

イキウメ『聖地X』(2015)

 

www.ikiume.jp

 

2021/1/18、YouTube配信で鑑賞。
太陽に続いて私がイキウメの作品を観るのはこれが2つ目。いや、めちゃめちゃ、めちゃめちゃ面白かった…!

(あらすじは書かないけれど、以下ネタバレしかない殴り書き)

 

ホラーとか心霊現象とかその類のものが苦手なのでおっかなびっくり再生ボタンを押したのだけれど、観終わってみるとその心配はなかった。ただただ不思議な現象と向き合う登場人物達が魅力的で面白い……!

ここでいう魅力的というのは必ずしも「素敵な人だな、友達になりたい!」という意味ではなくて、あくまでキャラクターとして面白いなという意味。太陽の森繁さんが好きだったので浜田信也さんの演じる滋に目を奪われがちだったのだけれど、この滋がとにかく要をイライラさせるので観ている私にまで伝染してしまい……「この人嫌だなーー!」と結構本気で思ってしまった笑
役者とはすごいお仕事ですね。

 

反対に、どんどん好きになっていったのが安井順平さん演じる輝夫。なんせ資産があって働かずに生きている(しかも家政婦さんまでいる!)のがなんとも羨ましくて、偉そうな態度も相まって冒頭はぐぎぎぎ此奴は好かん!となってしまったのだけれど、怪奇現象を面白がる態度と軽妙な話し方が徐々に癖になり、終わる頃にはすっかり推しになっていた。
客席の笑いを一番とっていたのも彼。「寄りを戻しにきた口上にしては斬新すぎんだろ」「(面白半分にやっていいの?と問われて)強いて言えば面白全部」あたりの台詞の切れ味がキレッキレで笑った。口の達者なキャラって好きだなぁ。

 

「聖地X」は輝夫に限らず、全ての登場人物の台詞がリズム良くて心地良いなぁと感じた。それがイキウメ作品のカラーなのかな?
日常を送る人々の中にポッと非日常が現れておかしなことになっているのに、彼らの言葉を聞いて立ち居振る舞いを見ていると「こんなこともあるのかも」とするっと納得してしまうような自然な流れがある。ドキュメンタリーほど近くはないけどファンタジーほど遠くない、身近なSFといった感じの塩梅が面白いと思った。

 

しかし、三人目の滋が浴びたであろう恐怖を考えると震えあがっちゃうな。
「こんなことを本当にしていいのか」「彼を情報と見做すのか人間と見做すのか」「“始末”できるのか」といった要達の葛藤ももちろんドラマなんだけれど、あそこで縛られたまま全てを聞いていた三人目についつい感情移入してしまって……
いよいよ殺すか?みたいなシーンでも輝夫のコメディチックな動きに客席から笑い声が上がっていたけれど、私は素直に怖すぎて震えてしまった。逃げられないって怖いよね。

 

そういえば、分身ではなく「分裂」をすることで記憶が分散されてしまう、という仕掛けは以前児童書の「ドラゴンラージャ」で読んだことがあって、なんとなくそれを思い出しながら観ていた。(ドラゴンラージャでは何度も分裂をしたキャラクター(悪役)がその自分同士で殺し合ったために自分自身の大半を失うという展開があったんだけれど、聖地Xではそんなことにならなくてほっとした……)

 

舞台の幕が降りるとき、ああ現実に帰るんだなぁと知らず知らずのうちに溜めていた息を吐き出すような感覚がある。
あの土地にしめ縄付きの石を置いて三人が語らうラストシーンで、ああ彼らもそれぞれ現実に帰っていくんだなぁと思ってやっぱり息を吐き出してしまった。非日常は続かない、静かに蓋をして彼らは日常へ戻っていくのだと思うとなんだかほっとした。
きっと藤枝くんも、時間はかかるかもしれないけれどまた包丁を握れるようになるんだろう。
そうだといいな。

 

【舞台感想】イキウメ『太陽』(2016)

「太陽」(2016)

2021/1/15、YouTube配信で鑑賞。

昨年配信されていた際に一度観ていたのだけれど、その時にはうううううううと呻くばかりで感想を残せていなかったので、今回こそは。

 

www.ikiume.jp

 

(あらすじは書かないけれど、以下ネタバレしかない殴り書き)

 

分断と不理解の物語ってなんでこんなに惹きつけられるんだろう。

多分それが現実にいくらでも転がっているからなんだと思うんだけれど、苦しくて苦しくて仕方ないのに、このエンタメに確実に「萌え」を感じる自分がいてもう何と言っていいか分かんにゃいんですよね。痛くて苦しいのに見たい。 別に太陽に限った話ではないんだけど、業じゃん、って思いながらやっぱり貪るように観る。

 

清水葉月さんの結と大窪人衛さんの鉄彦、経済封鎖されてろくに教育も受けられない小さな集落の「キュリオ」の若者として完璧じゃないですか? 手足が細くて、どこか憂鬱そうで、話し方は幼くて、着る物はいかにもみすぼらしくて。

自信に満ち溢れたノクス達とは何もかも違うし、集落と心中していると言っても良い立ち位置の大人達とも違う。 不安定だけれど若さ故の活力はあるし、外の知識はほとんどないけれど考える力はあって、だけどもその使い道に困っている感じとか。 なんかもう、度肝を抜かれてしまう。役者とはどえらい仕事だ……

 

他にビジュアル的なところで言えば、象徴的な太陽の照明がとても好き。

剥き出しのライトが舞台上にセッティングされているから、冒頭の暴力的な光が目に焼きついたまま最後までその存在を意識してしまう。 分断の原因ではないけれど一番の象徴ではある太陽がずーーーーっと見えているのが、なんだかとても酷いことのようで好きだ。

 

それから、結、征治、玲子の三人が作り出す宗教画。 いや私には宗教画のように見えたってだけなんだけれども、ワクチンを打って苦しむ結と彼女を抱き抱える征治、結頬に手を伸ばす玲子の三人がカメラで抜かれたシーン、3人のシルエットが神聖なもののようでゾクっとした。 きっとそれは玲子が自分の血を獣のように分け与えてまで欲しいと思った美しさなのだと思う。

 

見た目でグッときたのはそのあたり。あとはひたすら人と人との拗れた矢印に唸ってしまう。 鑑賞者の私はもちろんノクスではないので、自然と人間側に感情移入しながら見てしまうんだけれど、ノクスの合理的で巧みな口先に勝てない彼らを見ていると心臓がめちゃめちゃぎゅっとしてしまう。ノクスめ〜〜(?) (征治なんて時々、やたら偉そうなことばかり言う苦手な上司に被って見えてイライラしちゃう笑 彼は彼で魅力的なキャラクターなのだけれど)

 

私はね、特に森繁に一生懸命言い返す鉄彦が好きなんですよね。好きなんですよねとか書きながら泣けてきた。ええそうです鉄彦と森繁が推しです。

彼らはとにかく若くて、この差別感情だらけ(というか差別を誘発する材料しかないよね!)の世界でもお茶っ葉とエロ本で友達になることができる。でも話せば話すほどに鉄彦は森繁との差を感じずにはいられない。だって違うから。

俺は差別なんてしてないよ、ノクスの受ける教育なんてくだらないさ、君たちキュリオはすばらしい、としっかりした口調で訴える森繁と、それはお前が全部持ってるから言えるんじゃないか、俺は早くこんなところを出たい、ノクスになりたいと顔を歪めて必死に話す鉄彦。

正直森繁と鉄彦の会話はどこをとってもうぐぅとなってしまって言葉を失うんだけれど、やっぱり「お前が弱いのは、お前の責任だよ」とあの流れで言ってのける森繁に一番ギャーーーーーーー!!!となっちゃう。 おま、おまえ……!!

やめろよーー!!殴るな!鉄彦を殴るんじゃない!!うわーーーーーん。殴り愛だと思ってるでしょ……

森繁と鉄彦の間にはどうしようもない分断が確かに存在するけれど、それでも彼らは言葉を交わすんだよね。 それは、友達、友達です。 殴り合っても、理解できなくても、心底嫌いだと思うことがあっても、多分彼らは向かい合うことができるんだろうなぁと思う。

でもね、当選通知を破り捨てる鉄彦を見るときの、当惑から徐々に笑顔へ変わっていく森繁の表情が脳裏から離れないんだよ。 どえらい……どえらいシーンだ。好き。

 

それから、金田が好き。 金田、どれだけの間草一や故郷のことを考えながら生きていたんだろう。というかどれだけ苦しんできたんだろう。

彼の苦悩に満ちた表情はあの世界においてひどく歪で泣いちゃうんですよね。 ノクスになって冴えた頭を手に入れたはずなのに、彼は無敵の万能感とは半歩ずれたところにいるし、草一達の気持ちを慮る情緒もまだ持っている。(でももちろん同一ではない)

いやそんなのめちゃめちゃ苦しくない?金田……金田……

ラストシーンの余韻で「金田……」となってしまって、もはやセックス下手なことに打ちひしがれていた、前半のクスッと笑えるシーンを忘れてしまう。金田……

 

太陽、苦くて美味しいな……

結ちゃん鉄彦に襲い掛かる絶望とか、別人のようになった結の前に崩れ落ちる草一とか、克哉のせいであまりに苦しみを背負いすぎた純子さんとか、その克哉を追い込んだ物のこととか、なにもかもがたまらなく胃の底に溜まっていくんだけれども、うまく言葉にできない。(言葉にするためのブログなのに〜!) また何か言葉を掴めたら、こっそり追記する。