ゆるっと観劇録

ひたすらに観たものの感想メモ

【舞台感想】イキウメ『太陽』(2016)

「太陽」(2016)

2021/1/15、YouTube配信で鑑賞。

昨年配信されていた際に一度観ていたのだけれど、その時にはうううううううと呻くばかりで感想を残せていなかったので、今回こそは。

 

www.ikiume.jp

 

(あらすじは書かないけれど、以下ネタバレしかない殴り書き)

 

分断と不理解の物語ってなんでこんなに惹きつけられるんだろう。

多分それが現実にいくらでも転がっているからなんだと思うんだけれど、苦しくて苦しくて仕方ないのに、このエンタメに確実に「萌え」を感じる自分がいてもう何と言っていいか分かんにゃいんですよね。痛くて苦しいのに見たい。 別に太陽に限った話ではないんだけど、業じゃん、って思いながらやっぱり貪るように観る。

 

清水葉月さんの結と大窪人衛さんの鉄彦、経済封鎖されてろくに教育も受けられない小さな集落の「キュリオ」の若者として完璧じゃないですか? 手足が細くて、どこか憂鬱そうで、話し方は幼くて、着る物はいかにもみすぼらしくて。

自信に満ち溢れたノクス達とは何もかも違うし、集落と心中していると言っても良い立ち位置の大人達とも違う。 不安定だけれど若さ故の活力はあるし、外の知識はほとんどないけれど考える力はあって、だけどもその使い道に困っている感じとか。 なんかもう、度肝を抜かれてしまう。役者とはどえらい仕事だ……

 

他にビジュアル的なところで言えば、象徴的な太陽の照明がとても好き。

剥き出しのライトが舞台上にセッティングされているから、冒頭の暴力的な光が目に焼きついたまま最後までその存在を意識してしまう。 分断の原因ではないけれど一番の象徴ではある太陽がずーーーーっと見えているのが、なんだかとても酷いことのようで好きだ。

 

それから、結、征治、玲子の三人が作り出す宗教画。 いや私には宗教画のように見えたってだけなんだけれども、ワクチンを打って苦しむ結と彼女を抱き抱える征治、結頬に手を伸ばす玲子の三人がカメラで抜かれたシーン、3人のシルエットが神聖なもののようでゾクっとした。 きっとそれは玲子が自分の血を獣のように分け与えてまで欲しいと思った美しさなのだと思う。

 

見た目でグッときたのはそのあたり。あとはひたすら人と人との拗れた矢印に唸ってしまう。 鑑賞者の私はもちろんノクスではないので、自然と人間側に感情移入しながら見てしまうんだけれど、ノクスの合理的で巧みな口先に勝てない彼らを見ていると心臓がめちゃめちゃぎゅっとしてしまう。ノクスめ〜〜(?) (征治なんて時々、やたら偉そうなことばかり言う苦手な上司に被って見えてイライラしちゃう笑 彼は彼で魅力的なキャラクターなのだけれど)

 

私はね、特に森繁に一生懸命言い返す鉄彦が好きなんですよね。好きなんですよねとか書きながら泣けてきた。ええそうです鉄彦と森繁が推しです。

彼らはとにかく若くて、この差別感情だらけ(というか差別を誘発する材料しかないよね!)の世界でもお茶っ葉とエロ本で友達になることができる。でも話せば話すほどに鉄彦は森繁との差を感じずにはいられない。だって違うから。

俺は差別なんてしてないよ、ノクスの受ける教育なんてくだらないさ、君たちキュリオはすばらしい、としっかりした口調で訴える森繁と、それはお前が全部持ってるから言えるんじゃないか、俺は早くこんなところを出たい、ノクスになりたいと顔を歪めて必死に話す鉄彦。

正直森繁と鉄彦の会話はどこをとってもうぐぅとなってしまって言葉を失うんだけれど、やっぱり「お前が弱いのは、お前の責任だよ」とあの流れで言ってのける森繁に一番ギャーーーーーーー!!!となっちゃう。 おま、おまえ……!!

やめろよーー!!殴るな!鉄彦を殴るんじゃない!!うわーーーーーん。殴り愛だと思ってるでしょ……

森繁と鉄彦の間にはどうしようもない分断が確かに存在するけれど、それでも彼らは言葉を交わすんだよね。 それは、友達、友達です。 殴り合っても、理解できなくても、心底嫌いだと思うことがあっても、多分彼らは向かい合うことができるんだろうなぁと思う。

でもね、当選通知を破り捨てる鉄彦を見るときの、当惑から徐々に笑顔へ変わっていく森繁の表情が脳裏から離れないんだよ。 どえらい……どえらいシーンだ。好き。

 

それから、金田が好き。 金田、どれだけの間草一や故郷のことを考えながら生きていたんだろう。というかどれだけ苦しんできたんだろう。

彼の苦悩に満ちた表情はあの世界においてひどく歪で泣いちゃうんですよね。 ノクスになって冴えた頭を手に入れたはずなのに、彼は無敵の万能感とは半歩ずれたところにいるし、草一達の気持ちを慮る情緒もまだ持っている。(でももちろん同一ではない)

いやそんなのめちゃめちゃ苦しくない?金田……金田……

ラストシーンの余韻で「金田……」となってしまって、もはやセックス下手なことに打ちひしがれていた、前半のクスッと笑えるシーンを忘れてしまう。金田……

 

太陽、苦くて美味しいな……

結ちゃん鉄彦に襲い掛かる絶望とか、別人のようになった結の前に崩れ落ちる草一とか、克哉のせいであまりに苦しみを背負いすぎた純子さんとか、その克哉を追い込んだ物のこととか、なにもかもがたまらなく胃の底に溜まっていくんだけれども、うまく言葉にできない。(言葉にするためのブログなのに〜!) また何か言葉を掴めたら、こっそり追記する。